P.120-123 バウ&スターンスラスター 取り付けと操り方の基礎知識

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ボートコントロール(バウ&スターンスラスター)

THRUSTER(スラスター)は大型艇には最もポピュラーなアイテムで、港での離着岸の際船を制御する重要な役割をしています。そして近年はコンピューターが組み込まれレバー一本で前後左右に船を自在に操ることが出来るシステムの中心的なアイテムとして進化してきました。特に小型船舶にも利用可能なプロペラタイプのスラスターはここ数年で大きく進展し、ヨーロッパからアメリカへそして日本へと普及してきております。
FMSでも1990年ジャパニーズカスタム艇、プロオーシャン54(てけてけ丸)にポンプ式のスラスターを試験的に取り付けて以来、船を制御するアイテムとして注目し続けておりました。そして、1999年に当時のヤナセマリン部が輸入したALBIN275フィッシャーマン(全長8.3m)にプロペラタイプの小さなスラスターが付いていたのを見て、将来必ず普及するアイテムだと確信し日本の実情に合うものを探し本格的に取り扱うチャンスが来る日を待っていた次第です。

1990年時代 遊漁船への普及
プロオーシャン54(てけてけ丸)に採用した物はオランダ製のポンプ式のスラスター。3インチのホースから噴出する水流を利用して船を制御するものですが、当時は小型船舶に利用できるものはこのアイテムぐらいで価格も約100万円と高額でした。しかし1軸のキール船にとっては大変有効な船の制御装置。離着岸の際などには大いに役立つため、てけてけ丸に取り付けて以来遊漁船の間で広まっていきます。特に狭い水路に船を泊めている場合や、狭い港に大型船を係留する場合などは大変便利なもので、効率が良いプロペラタイプが出現してからは多くの遊漁船に採用されさらに屋形船へと普及していったわけです。当時はまだこのサイズのポンプ式のスラスターは岸壁などの壁側であれば効率良く作動するのですが何もない側では思うような効率を得られませんでした。


1999年ボートショーに登場
ALBIN275フィッシャーマンがボートショーに出展された時は驚きました。ヤンマーのディーゼルエンジンを搭載した1軸シャフト船で全長8.3mの小さな船にプロペラタイプの小さなスラスターが付いていたのです。プロペラタイプのスラスターは当時珍しいものではなくこのメーカーの他のクラスの船にも付いていましたし、他のメーカーの船にも既に多く採用されていました。しかし比較的価格の低い小型船に取り付けられたケースはそれまでには無かったと思います。早速試乗してみて納得。離着岸時だけでなくスパンカーを設備してボトムフィッシングを行う時にも最適な補助役となる事は間違いないアイテムだと確信し、当時のオーシャンライフ誌5,6,7月号でこの船と艤装例を取り上げ紹介したのでした。


現在のレベル
小中型船舶に利用できるプロペラタイプのスラスターは近年広く普及してきました。FMSが取り扱うイギリス製LEWMAR社製品の最新情報を記してみますと、最もリーズナブルな価格でポピュラーな物は電動スラスターで出力2.2〜10.8kw、FRP管のサイズは内径140〜300mmまで用意され、バウだけでなくスターンにも取り付けができるキットも用意されています。また、外部からの発生装置が必要になりますが FRP管サイズ内径250mmと300mmには油圧式があり重量とスペースが軽減されパワーがアップしたものもあります。他にもサイズは大きくなりますが、内径400〜600mmの油圧式スラスターや垂直引き込み式、回転引き込み式油圧スラスターなど150フィートのパワーボートやヨットに適合するものまで多種開発されています。

小型FRP船舶への取り付けが簡単に!
スラスターの機能の向上とデザインにおける大きな進歩はメンテナンスフリーなオペレーションを充実させ、大型艇はもちろんですが小型FRP船舶の26フィートクラス(スペースがあればそれ以下もOK)までの取り付けを可能にしています。そこでこのコーナーではスラスターの取り付け位置の条件を解説し、実際にヤマハUF27にLEWMARスラスター最小モデル140TT 2.2kwを取り付けてみた様子を紹介することで、簡単に取り付けられることを実証してみることにしました。

スラスターの取り付け位置の条件
❶最も効果を得るためには船首方向に位置させることになるが、船内外の配置や構造に関係してくるので十分な下見が必要になります。
❸スラスターのモーター部分はコンパクトになってきているが、A,B部分を確認して十分なスペースが船内にあることを確認してください。

スラスター本体の取り付け
❹垂直状態から90度までのアングル内ならとこでも取り付け可能。
❺スラスターのポジションMAX600mmに注意。
❻❼この作業が最も重要。
❽❾ガスケットとシール剤で固定します。このとき正しい場所にシールすることが重要。
❿⓫プロペラの向きに注意し、プロペラ・亜鉛・ワッシャー・ナットとセットし最後にロックして終了です。

取り付けの実際……ヤマハUF27
❶船体両サイドにパス等を利用して左右対称位置にパイロットホールを開けます。❷❸トンネルパイプの外側にあわせマークしカットします。❹カットした穴を内側から見るとこのようにかなり変形します。両側を同じように開けることは難しいため、片側の穴は少し小さめに開け修正しながら工事することをお勧めします。

❺左右対称にトンネルパイプの穴が用意されました。
❻❼水平を確認し最終調整をしながら進めていきますが、このときトンネルパイプと船体のFRP積層する部分をサンディングして行うことを勧めます。
❽船体内部から先に積層します。この仕事が最も重要で、狭くなって道具が入りにくい下の部分は指を使って作業しました。

トンネルパイプの出入り口部分は対策が必要です。❾のままですと水流が当たってしまい抵抗になってしまいます。
❿⓬は理想的な状態ですが在来船に後工事でこのようなFRP成形をすることは大変困難なことです。
したがって一般的には⓫のように前側に凸部分を作り、流れを外に逃がすようにして対策します。

⓭トンネルパイプを船体に沿って切断するのですが、水流対策のために前側を少し残しておくとうまくいきます。そしてポリパテで隙間や段差を埋めていきます。
⓮船首側から見ると凸部分が出ているのが良く分かります。
⓯外側のFRP積層ですが、内部の積層を確実にしていれば外側は2〜3層ぐらいでまとめると仕上げが楽です。
⓰最後にパテ修正をし塗装して終了ですが、このくらい凸部分を出すとスムーズな流れを作り出すことができます。

⓱トンネルパイプの内部は均一な面になっていますので特別な仕上げは必要ありませんが塗装の処理だけは必要です。
⓲⓳ハブユニットを手順に沿って取り付けプロペラそして亜鉛とセットすれば完成です。
トンネルパイプとプロペラの隙間がほとんどないことがこの写真でも分かると思いますが、ハブユニットの取り付け精度は非常に重要です。
⓴完成した内部の写真です。この船はキャビン内の一番前の区画に余裕を持ってセットできました。

スラスターの利点

マリーナ等の停泊港での出入りは船を自在に操るレベルが必要で、まして風が強い時などにはベテランの船長でも要注意な作業になります。ここで紹介しているスラスターはバウに付けることで船の旋回能力を高め、様々な場所での離着岸や狭い水路等での旋回・変針をお手伝いするもので、運転席に設置したコントロールパネルやジョイステックレバーで簡単に操作することができます。また、スターンに取り付けることも可能で、バウスラスターと組み合わすことで船を真横にスライドするように動かすこともできます。

1軸船の場合、バウスラスターが無ければ後方のポンツーンに完璧に着けることは困難 です。バウスラスターを左舷に噴射して向きを直せば後は後進でOKです。

左舷から水を吸い込み右舷に噴射しています。プロペラタイプなので効率は抜群です。

ボトムフィッシングへの応用(スパンカーと組み合わせることで船の操り方がスキルアップ)
まず初めに当マリンカタログP80、82、83を見ていただくと分かりやすいのですが、フィッシングボートにはスパンカーが有効でない船舶と有効な船舶(スパンカーボート達)があります。バウスラスターは船首を左右自在にコントロールさせることが出きるので、スパンカーが有効でない船舶に装備すれば有効性はアップします。ただし、もともと船首が風下に流れやすい船舶なのでスラスターの使用頻度が多くなりバッテリーの消費等も多くなります。
一方、スパンカーが有効な船舶に取り付けた場合は、その効果は抜群でボトムフィッシングでの船の操り方がグンと楽になりスキルアップを実感できるはずです。通常スパンカーを展開していても船首は風下に向こうとします。従ってスパンカーに風が当たり反発して戻そうとしているため船には後ろに下がる力も多く働きます。もちろんこの状態で潮の流れに付いていくことも出きるのですが、スパンカーのセイル面積を変更できないため反発する力まではコントロールできないのが現状でした。しかしスラスターがあればその辺は自在です。風下に向く瞬間に戻すことも出来るし、向いてしまった船首をその船の位置で戻すことも出来ます。スパンカーの下桁コントロールのような自然な力(無動力)で船をコントロールすることは出来ませんが、わずかな動力で船を操ることが出来るわけです。自然を利用した(無動力)スパンカーと電動バウスラスター、この二つを組み合わせることでボトムフィッシングの釣果がさらに上がることは間違いなさそうです。

ヤマハUF27はスパンカーボート達の一員。マイボートスパンカーライトⅣを装備しています。トローリングはカツオからカジキ釣りまで、ボトムフィッシングはキス釣りから1200mの深海釣りまでチャレンジします。思いっきり楽しめそうな船であることは間違いないし、装備も本格的です。

室内の運転席コントロール部分。前からエンジンコントロール、トリムタブのコントロール、そしてジョイスティック型のバウスラスターのコントロールです。

アフトコクピットにある2ステーションボックスに位置したバウスラスター用のタッチコントロール。スラスターも2箇所操備、まさしく手前船頭用の設備です。

スラスターを装備するために必要な標準的な組み合わせアイテム(FRP資材を除く)
スラスターの装備はまず本体の選択をし、それに合ったその他の必要なアイテムを用意することから始まります。そこでここではこの解説に登場したヤマハUF27に実際に搭載された装備アイテムを紹介しながら解説してみることにしました。(最も標準的な装備例です。)

❶船の大きさやスラスターの取り付け位置の条件によってスラスター本体のサイズを決定します。(140TT2.2kw)
❷取り付け位置を計測してFRP製のトンネルパイプの長さの決定をします。(140用0.75m)
❸コントローラーを決定します。UF27は2 ヶ所に装備しています。(キャビン側にタッチコントロールパネル、アフトコクピット用にジョイスティックコントロール)
❹コントロールケーブルとYコネクター。UF27はコントローラーが2 ヶ所に装備されているのでYコネクターとコントロールケーブルが必要です。(コントロールケーブル7m×2、Yコネクター ×1)
❺バッテリーの位置からスラスター本体までの長さで電源ケーブルサイズを決定します。(ANCORケーブルサイズ2(34mm)×約7m×2)(P206参照)
❻ヒューズホルダーとヒューズ。(ヒューズホルダー+ヒューズ200A)
❼運転席からメインスイッチの操作をするために必要です。(ソレノイドリレー+ロッカースイッチ)
❽メインスイッチは必要です。(ソレノイドリレーを装備する場合は省くこともできますができれば付けておきたいアイテムです。)(P186参照)
❾スラスターは消費電力が大きいので専用のバッテリーを用意する必要があります。クランキングバッテリーなら95D以上が必要でVSR(電圧感応式)リレーをメインバッテリーとの間に入れることで簡単に装備することができます。(P187参照)

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