テキストP.50,P.51 フィッシングボートのデッキ下のイケス設備に対する諸問題と対策

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日本漁船(20トン未満)に見られるデッキ下のイケス設備ということで基本的な考え方を紹介してきましたが、近年のフィッシングタイプのプレジャーボートやレジャー漁船等の傾向を見るとデッキ下のイケス設備を十分機能させるためには、ずいぶん無理があることに気が付きます。そこで、近年のフィッシングボートには、なぜデッキ下のイケス設備が適さないかを考えた上で、少しでも魚をより活力よく生かすためにはどのような対策をしたらよいかを提案してみました。


●諸問題
近年のフィッシングボートは、高速性能をもった軽量艇が多く、幅は広いが喫水は浅いタイプの船が多くなっています。したがってこのようなタイプの船のデッキ下にイケス設備を配置した場合はさまざまな障害が発生しています。このコーナーではその中でもとくに目立つ事柄を問題点として紹介してみました。

○高速艇(20ノットを超える船舶)で船底のスカッパーより水を出入りさせる場合、出入りする水の水流調整は実際には非常に難しいものです。例えば、22ノット時では水が勢い良く入り過ぎイケス内をかき回してしまったり、25ノット時では逆に水が抜けてしまうといったように思うように調整できないケースが多く、スカッパーにフタをして水の出入りを止めないと高速で走行できないというようなことが起こります。

○喫水が浅い船舶は、いくらデッキ下に広い容積を配置したとしても船底にあるスカッパーより水が出入りするため、その船の喫水以上には水位が上がりません。そのため非常に浅いイケス設備になってしまいます。例えば、たて、よこ80cmで深さ80cmあるイケスに20cmしか水位がないといった状態で、船の揺れや水温の変化に魚がついていけない結果になってしまいます。
その他、船外機艇に多く見られるように滑走性能が良い船では、走行時に水面下に入る面積が少ないことや、配置的に容量不足のイケススペースになるなどイケスの機能を十分に果たさないものになってしまいます。したがって日本漁船に多く見られる深く喫水が入り、容量も大きく配置できる船舶と比べると、近年のフィッシングボートの傾向は、生き餌を長時間生かしたり、釣り上げた魚を帰港地まで生かすことができる設備として使用することは、かなり難しい問題をクリアーしないと無理があるということになります。
最近ようやく、フィッシングタイプのレジャー漁船で、このような諸問題にとりくみ、大型イケスを用意して成功しているケースを見かけるようになりましたが、これらは設計の初期段階からイケス設備を重要視し他のことは多少犠牲にしてもベストポジションに配置しようと努力した結果であると考えられます。しかし残念ながら近年のフィッシングボートは船底に穴をあけるスカッパー付きのイケス設備を配置しにくい船が多いのが現状です。

このイケスはたて70cm、よこ60cm、深さ80cmあり、全容量は336ℓありますが、実際に水が入る容量は80ℓです。全容量の1/4しか有効な水位はないことになります。さらにこの状態で高速で走行すると、下の写真で見られるように水位は上下し、イケス内を水流でかき回すことになり、魚が生きる環境でなくなってしまいます。

実際このようなイケスは、フィッシングをしている時か、低速で走行している時だけ有効で走行中はスカッパーにフタをして使用しなければならない、条件付イケス設備ということになります。

●対策方法
どのようなイケス設備であっても、ある適度の水量と船底に付けたイケススカッパーより水の出入りがあれば、停止している時やスローで走行している時は、魚が生きていける環境はあると言っていいはずです。したがってここで対策するテーマとして、走行時(高速走行を含む)に水流調整がうまくいかないケースや、喫水が浅く、水量不足のイケス設備に対しての対策方法を考えてみることにしました。

水流調整に対しての対策方法
現状の船に装備されているスカッパーが水流調整できない一般的なタイプの場合、水が出入りする調整はフィン(潮受け)をケズルことでしか対応することができません。したがってスピードが出る船の場合、水流が調整できる水流調整型スカッパーに思い切って交換しないと対策できないことになります。このスカッパーですと、イケス内より調整できるため、自船の巡航速度に合わせ水流調整をすることができますし、その都度調整する必要はありますが、任意のスピードに対しても常にベストな水流に合わせることができます。ただし20ノット以上のスピードに対応できるように開発されているのですが、スカッパーが水面上に出るような位置に設置されている場合は、調整は不可能です。
次にスカッパーより入る水は問題はないが、スピードが上がると出る水が多くイケス内の水位が下がってしまう船の場合、水量調整パイプをセットすることで対策します。このパイプをセットすることで走行中はパイプの高さまで水位を保つことができるため、近年の高速艇の必需品と言っていいぐらいのアイテムとなってきました。ただし船が停止しスカッパーの入口側よりの水流が停止すると、いくらパイプを高くしても喫水レベルの水位になってしまいます。

水流調整・スカッパー(出入口どちらにも使用できます。)
3吋、3.5吋、4吋と3サイズあり、フィン(潮受け)の角度をイケス内より自由に変えられるため、水流の調整ができるものです。

水量調整パイプ
2吋、3吋、3.5吋、4吋と4サイズ 注)FMSの取り扱いは、イケダ式スカッパーです。
スカッパーのサイズやネジのピッチなど大手造船メーカーは、独自でこれらのスカッパーを製造していますので、この商品とは適合しません。適合しない場合は、各メーカーに問い合わすか、スカッパーのフタを改造して下さい。

水量調整パイプの上側に小さな穴をあけることで船が停止している時でも穴より水が流通します。ただしあまり大きな穴をあけたり、下の方まであけると走行時にこの穴から出てしまいますので、少しずつ自船のイケスに合うよう穴をあけることが必要です。

喫水が浅く、水量不足に対しての対策方法
前項、循環用ポンプを導入する基本的考え方と装備の仕方(P135)で説明しているように、船底に装備されているスカッパーにフタをして水の出入を止め、外部の船底よりポンプで水を吸い上げ、必要な水位位置にオーバーフロー口を用意して水を循環させる方法と、水位は低いままですが、スカッパーよりの水の出入はそのままで水中ポンプを利用して、水量不足ではあるが水を循環させることで、魚が生きていける環境を強制的に作ることしか対策方法はないように思えます。
すなわち、水位が低いイケス設備は、船底に穴をあけスカッパーを装備するメリットは非常に少ないため、デッキ下のイケス設備と呼ぶよりは、デッキ下のタンク設備とし、スカッパーの代わりにその船にとって設計上入れてもよい水位位置にオーバーフロー口を用意する方がイケス設備として利用する範囲があるように思えます。
右図に水位が低いイケス設備のスカッパーにフタをして水の出入を止め、循環用ポンプを設備する必要はありますが、オーバーフロー口を2ケ所用意した対策方法を記しましたので参考にしてください。

イケス用オーバーフロー口
イケス内の壁に付けることができるタイプで、中にアミ目があり、フタで密閉できるものです。PLスルハルを船体の外板へ付け、ホースで接続することにより水を出すことができます。ホース径:38mm、外径:90mm、取付外径:58mm

第1オーバーフロー口の水位で使用することもでき、第1にフタをすれば第2まで水位を上げることができます。船外への出口は1個で第1、2にフタをすれば船外からの水の侵入を防ぐこともできます。
※オーバーフロー口に使用するものとして、スルハルがとても安易ですが、水位レベルを可変することができません。しかしスカッパーを使用すればフタを閉めることができ、網目もありますので小魚が中に詰ることなども防ぐことができます。

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